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癒しようのない心の傷

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癒しようのない心の傷

エヴァ・バートレット
エレクトロニック・インティファーダ/Live from Palestine
2009年1月21日


《2009年1月20日》

ガザ市シャジャイヤ地区、無惨な姿をさらしているワファ・リハビリテー
ション・センターから続く通りはどこも黒い汚物があふれ、強烈な下水の
臭いをまき散らしていた。12日に白リン弾と思われる化学弾を撃ち込まれ
て屋根が焼け落ち、15日にも4棟の建物が激しい爆撃を受けた病院は、治
療の再開に向けて懸命の再建作業を続けているところだった。同じように
爆撃され、火災を起こし、ひどい損傷を受けた、タル・アル・ハワ地区の
アル・クドゥス病院でも状況は同じだ。

一緒に行動しているカナダのTVのクルーに「火は昨日まででおさまったよ
うです」と言ったばかりだったのに、まだ何カ所も燃えている個所があ
り、折々に、あちこちで新たな白い煙と炎が上がるのが見えた。こうした
光景は、私はもう何度も目にしてきたけれど、TVクルーは、爆撃から8日
がたった今もチロチロと燃え、くすぶり、いつなんどき勢いよく炎を上げ
て再び燃え出すともしれない状態が続いていることに驚きを隠せなかっ
た。

北部ガザの赤新月社チームは、少し前から、エズビット・アービド・ラブ
地区のステーションに集まって、透明なプラスチックフィルムを窓の大き
さに合うように切っていく作業を進めている。家や周辺に爆弾が落ちてガ
ラスを吹きとばされてしまった窓に貼るためで、とりあえず寒さをしのぐ
ためのサポートの第一歩だ。でも、家をなくしてしまった人たちには何を
提供できるだろう。せめてテントでもあればいいのだが。

病院の様子を見たあとで、私は数時間にわたって、ある大家族の人たちに
話を聞くことができた。家への砲撃、白リン弾によるとおぼしき火災、家
を占拠したイスラエル兵たちが残していったおぞましい落書きの数々、4
日間、食べ物も水も薬もなく、トイレにも行かせてもらえないまま、家に
監禁されていた高齢の両親、飼っていた羊と山羊までが殺されたこと。監
禁されていたウンム(お母さん)はいまだに恐怖が抜け切らない様子で、
合間に何度も何度も「話を聞いてくれてありがとう」と言いながら、恐ろ
しかった数日間の出来事をとめどなく話しつづけた。「本当に恐ろしいも
のを見てしまった。身の毛がよだつようなことばかり。これまでイスラエ
ル兵は3回やってきたけど、今度のが一番ひどかった。道端にはいっぱい
死体が転がっていた。私たちはただの年寄りなのに、なぜこんなことをす
るの?」 ふたりはひと部屋だけの自分たちの家から息子たちの家の1室に
連れていかれて、そこに閉じ込められ、イスラエル兵は、ウンムが毎日飲
まなくてはならない薬とインスリンを取り上げて、足で踏みにじった。ウ
ンムより年上のアブー(お父さん)は胸ポケットから吸入薬の容器を取り
出して、これも閉じ込められている間、使わせてもらえなかったと言っ
た。

家族全員が友人であるアブー・N一家の家にも行き(このところ毎日行っ
ている)、今日はアブー・N自身から詳しい話を聞くことができた。ずっ
とアブー・Nのことが心配でならなかった。3週間近く、アブー・Nは生き
ているだろうかと気をもみつづけたのち、2日前にようやく会うことがで
きたのだが、その時のアブー・Nは、土気色と言っていいひどい顔色で、
ナーバスで、完全に打ちのめされているように見えた。昨日も同じ、弱々
しく、以前のアブー・Nの誇り高い年配者の雰囲気はほとんど見られな
かった。奥さんを殺され、みずからも恐ろしい体験をしたのだから、それ
も当然のことだろう。それでも、今日は以前のアブー・Nにかなり戻って
いて、笑い声を上げながら息子のひとりと会話の時間を奪い合う様子に、
私は心から嬉しくなった。最初のうちこそ、途切れ途切れにしか英語が出
てこなかったアブー・Nだが、自分の身に起こったことを証言するのだと
いう固い意志に、言葉が少しずつ波打つように出てくるようになっていっ
た。ウンム・Nを失って、このうえない悲しみに押しつぶされているふた
りが、また元の自分たちを、生(せい)を取り戻しつつある姿を見るの
は、とても勇気づけられることだった。

なんとも無作法ではあったけれど、私は夕食前にアブー・Nの家を辞し
た。みなが口々に、一緒に夕飯を食べていってくれと言った。普段だった
ら絶対に断ることはない。めちゃくちゃにされた家を、全員で少しずつ元
の状態にしはじめたばかりの、こんな時ならなおさらのこと。占拠してい
たイスラエル兵が垂れ流していた糞便はすべて取り除かれた。この汚らし
いイスラエル兵の置土産は全部袋に詰めて家から持ち出され、イスラエル
兵が汚したカバー類もすべて袋に入れて燃やされ、粉々になった食器や、
そのほかの壊された物もすべて片づけられた。家はガランとしていて、真
新しい銃弾と戦車砲の痕がいたるところにある。そして、依然として家中
に漂っている、なんとも言いようのない臭い。2週間にわたって家を占拠
していた兵士たちが残していった糞便と、そのほかの得体の知れない汚な
らしい物の不快な臭い。イスラエル軍が占拠していた地域の家はどこも、
これと同じ悪臭が漂っていた。

とにもかくにも、アブー・N家の人たちが自宅の台所で夕飯の支度ができ
るまでになったことは喜ばしく、私をもてなそうというみんなの気持ちに
は本当に心暖まる思いだった。それでも、私は失礼しなければならなかっ
た。アラファの家族のもとに行く時間だったからだ。

救急医療チームの一員として働いていたアラファ・ハニ・アービド・ア
ル・ダイムが殺されたのは1月の4日、怪我をした人と遺体を救急車に収容
しようとしていた時のことだった。

アラファが殺されてから14日めになって、家族はようやく3日間の追悼式
を営むことができた。私は、一家の家に行って初めて、今日が追悼式の3
日めだということを知った。当然ながら、奥さんの嘆きと悲しみ──心やさ
しい男性、よき夫、愛する子供たちの父親を失った奥さんの姿は、たとえ
ようもなく痛々しかった。そして、私は自分がまだ泣くことができるのを
知った。この3週間の間、ありとあらゆるレベルの怪我をした人たちを、
死と紙一重の状態にある人たちを、これ以上考えられないほど凄惨な死に
追いやられた人たちを見てきて、私は何事に対しても、驚くほどに動じな
くなっていた。イスラエルの爆撃が続く恐ろしい時間を過ごすうちに、爆
撃音を聞くだけで湧き上がる恐怖や、今、自分が爆撃を受けているのだと
思う時のショックや恐怖、さらには死に対してさえも、ほとんど感情を揺
さぶられることがなくなっていた。でも、アラファの奥さんの目を見つ
め、奥さんの心の痛みを感じ、アラファを失った時の私自身の痛みを思い
出していると、心の奥にある私の感情は最初のまま、なまなましいままで
沸き立っているということが、このうえなくはっきりとわかった。いずれ
は、数え切れないほどの思いが表面に出てくるのだろう。状況がもう少し
落ち着いた時になってから、抑えようもなく湧き上がってくるのだろう。

このことに気づいた時、私はハタと、もうひとつの厳然たる事実に思い
至った。パレスチナの人たち、とりわけ、これまで何度となく繰り返され
る侵攻に耐えつづけてきた大勢の人たちには、実のところ、こうした痛
み、心が受けた傷の深さに対処するすべがないのだ。心にダメージを受け
るような事態はほかにもいくらでもある。軍事占領下での暮らし、自分や
家族の一員が投獄される状況、ボーダーを閉ざされ封鎖された中での生
活……これらは、無数の要因の中のほんの一部でしかない。

アブー・Nの孫のひとり、アブダッラーは、今ではほとんど泣いてばかり
いる。2か月前に最初に会った時には、ちょっぴり生意気な6歳のわんぱく
坊主だったアブダッラー。この子は今、爆弾の炸裂する音と無人機の飛行
音の記憶からどうしても離れられないでいるように見える。無人機の音
は、私にもすぐにわかる。今も──1月20日の真夜中、「停戦」の2日めに
入った今も、無人機が頭上で旋回しつづけている。今ここで聞こえてくる
違えようもない無人機の飛行音を、私は、この3週間の空爆とそれに伴う
死から切り離して聞くことはできない。アブダッラーも同じなのだ。で
も、アブダッラーが、今後、このことでどんなセラピーも受けることがな
いのはほぼ間違いない。家族がどれほどアブダッラーのことを思いやって
いても、実際にそうしたセラピーを受けさせてあげられる機会はまず訪れ
ないだろう。アブダッラーはこの重荷を、将来の重荷ともども、ずっと抱
えていかなければならないのだ。パレスチナの大多数の人と同じように。

ガザに対してなされた今回の戦争の結果をまざまざと示しているものはい
たるところにある。巨大なクレーター。すべての町や市の全域に広がる破
壊された家とビル。焼け落ちた倉庫、店舗、病院、学校、車、そして、も
ぎとられた手足、焼けただれた皮膚、今もなお燃えつづけている火。しか
し、アブダッラーをはじめとするガザの人たちの深い深い心の傷は、体の
傷以上に、人々が生きる社会そのものを不具にしてやろうという意図のも
とにもたらされたものなのだ。

・・・

エヴァ・バートレットはカナダ人の人道活動家、フリーランサー。2007
年、西岸地区の各地に8カ月、カイロとラファ・クロッシングに4カ月滞
在。2008年11月に第3次フリー・ガザ運動の船でガザに到着したのち、現
地にとどまり、国際連帯運動(ISM)の一員として活動を続けている。現
在、ISMメンバーは、救急車同伴活動を実施し、イスラエルのガザ空爆・
地上侵攻の目撃証言を現地から発信している。

"Profound psychological damage in Gaza"
Eva Bartlett writing from the occupied Gaza Strip, Live from
Palestine, 21 January 2009

原文:
http://electronicintifada.net/v2/article10230.shtml

翻訳:山田和子

※この翻訳は以下に掲載されています。
http://palestine-heiwa.org/news/200901291553.htm

・・・

エレクトロニック・インティファーダ:
http://electronicintifada.net/new.shtml

バートレットさんのブログ(In Gaza):
http://ingaza.wordpress.com/

ISM(国際連帯運動)サイト:
http://www.palsolidarity.org/

YouTubeのISMの動画チャンネル:
http://jp.youtube.com/profile?user=ISMPalestine&view=videos

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プロフィール

志賀直輝 

Author:志賀直輝 


志賀直輝 a.k.a. kitou seishi


海外逃亡をへて4年ぶりの糞賃労働の日々。パートナーの出産と共に主夫強制引退。現在は、育児と保守的な職場内で闘争実施中。近い将来は、子連れ狼になりたい。


と思っていたが、原発事故によって一寸先は闇、現在、原発猛反対中。文字通り、お先まっくろ(アナキスト)でございます。どいつもこいつも、金、金、金、みんなでアナーキーに生きるしかない!原発や原爆の原料になるウランのある山を畏怖し近かづかなかったインディヘナたちは、7世代先の子どもたちのことまで考えていたらしい。っていうんだから、アナーキーかつインディヘナなように!

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